JERRY BUTLER / He Will Break You Heart
LP (Vee Jay LP-1029)
Producer: Calvin Carter
抑制の効いたバリトンに熱い思いを秘めた誇り高きバラディアー。
シカゴR&B流儀に則った美しいスタイリスト、ジェリー・バトラーである。
インプレッションズの「フォー・ユア・プレシャス・ラヴ」に代表される瑞々しく、どこか崇高な雰囲気も漂わすバラードから、エヴァー・グリーン感覚も麗しいポップなリズム・ナンバーまで、残されたヒット・ナンバーの数々は今もその鮮度を失ってはいない。
このアルバムは、60~61年録音作品を収め、インプレッションズ名義のA(2)、B(3)を加えたヴィー・ジェイからの1枚目。
ソロ・デビュー当初はポップ/スタンダード・シンガーとして売り出しを図った観もあったが、ビートのあるR&B感覚を持ったA(1)のヒットで新たな方向を獲得、ここではポップR&Bシンガーとしてより個性を明確にしたジェリーを見て取れる。
プレシャス・ラヴ・スタイルのA(2)(4)、少しモダンな作りのB(1)(3)といったナイーヴなバラードがいつもながら心に染み込むが、特に素晴らしいのは、ポップな中にもシカゴ色を感じさせるA(1)、センチメンタルなヴォーカルで泣かせるA(6)。
共にアーリー・ソウル的情感も鮮やかな、この時期のジェリーの傑作だ。
また、50年代の香りも残すリズム・ナンバーでの洗練を試みた都会的なタッチも美しいニュアンスを持つ。
端正な装いに、時代を生きる若々しいしなやかさを感じさせるR&Bアルバムである。
▶Some More from this Artist
- “Jerry Butler, Esq.” (Abner 2001)
- “He Will Break Your Heart” (Vee Jay 1029)
- “Love Me” (同 1034)
- “Aware Of Love” (同 1038)
- “Moon River” (同 1046)
- “Folk Songs” (同 1057)
- “Giving Up On Love” (同 1076)
- “Delicious Together” (同 1099)
- “The Best Of Jerry Butler” (同 1048)
- “More Of The Best Of Jerry Butler” (同 1119)
- 『ユア・プレシャス・ラヴ』 (UPS-2268)
- “Soul Artistry” (Mercury 61105)
- “Mr. Dream Merchant” (同 61146)
- “Golden Hits-Live!” (同 61151)
- “The Soul Goes On” (同 61171)
- “The Ice Man Cometh” (同 61198)
- “Ice On Ice” (同 61234)
- “You & Me” (同 61269)
- “The Best Of Jerry Butler” (同 61281)
- “Jerry Butler Sings Assorted Sounds With The Aid Of Assorted Friends And Relatives” (同 61320)
- “Gene & Jerry – One & One” (同 61330)
- “The Sagittarius Movement” (同 61347)
- “The Spice Of Life” (同 2-7502)
- “The Love We Have, The Love We Had” (同 1-660)
- “Power Of Love” (同 1-689)
- “Sweet Sixteen” (同 1-1006)
- “Love’s On The Menu” (Motown 850)
- “Suite For The Single Girl” (同 878)
- “Thelma & Jerry” (同 887)
- “It All Comes Out In My Song” (同 892)
- “Two To One” (同 903)
- “Nothing Says I Love You Like I Love You” (Phila. inter. 35510)
- “The Best Love” (同 36413)
- “Ice ‘n Hot” (Fountain FR-2-81-1)
アブナー/ヴィー・ジェイ時代は、バラディアーとしての性格が強く、主にR&Bとポップ/スタンダードの2つのスタイルに分けられる。
前者に相当するのが②④⑦、後者に相当するのが⑤⑥、中間をいくのが①(③は①の再発)。
⑧はR&Bスタンダードをチャーミングに料理した好デュオ・アルバム。
ベスト盤では初LP化曲を含む⑪が最も質が高い。
マーキュリー時代では、ジェリーのゴスペル・ソウル的側面が明らかになったライヴ⑭、ソウル名曲カヴァー集⑮を経て、フィラデルフィアでギャンブル=ハフと組んで録音した⑯で第二の絶頂期を迎える。
ジェリーのソウル的粘りを増した唱法、持ち前の粋な身のこなしがフィリーの洒落た感覚と絶妙にマッチし、「ヘイ・ウエスタン・ユニオン・マン」を始めとする5曲ものヒットが⑯から生まれている。
⑰⑱も同系統のいいアルバムだ。
⑳以降はやや迷いが見えるが、ニュー・ソウル運動も見据えたシカゴのファンキーな音をバックに濃いヴォーカルを聴かせる㉖あたりは悪くない。
モータウン以降も誠実な姿勢は変わらず、アルバムごとに録音地を変え新たな音に挑むが、捨て難い曲もあるものの流石にかつての輝きは薄れている。
転載:U.S. Black Disk Guide©平野孝則
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