amazon music unlimitedでU.S. Black Disk Guide音源を探す旅 No.109

音楽

JOE SIMON / No Sad Songs

LP (Sound Stage 7 SSS-15004)

Producer: John Richbourg

[A] (1) (You Keep Me) Hanging On (2) My Special Prayer (3) Long Hot Summer (4) No Sad Songs (5) I Worry About You [B] (1) Nine Pound Steel (2) Put Your Trust In Me (Depend On Me) (3) Travelling Man (4) In The Same Old Way (5) Can’t Find No Happiness (6) Come On And Get It

ジョー・サイモンがソウルのスーパー・スターだった、ってことを知らないソウル・ファンが日本にいるからといって、それはジョー・サイモンのせいじゃない。

65年から81年のあいだにR&Bのトップ・トゥエンティ入り28曲。

あの豊かなバリトン・ヴォイスを駆使したタメ息が出るほどうまいヴォーカルを、C&Wっぽいレパートリーが多いというだけで敬遠するのなら、どうぞ。

オーティス・レディングの葬式で、遺族に頼まれてオーティス愛唱のゴスペルを歌ったというサイモンの声が黒くないわけないだろうに。

ルイジアナ生まれ、西海岸育ち。

教会やインプレッションズ・タイプのヴォーカル・グループで経験をつんだあと、マイナー・レーベルを点々。

そのうち、シカゴのヴィー・ジェイ・レーベルと結びつく。

ジョン・リッチバーグ指揮下にフェイムで吹き込んだソウルフル・バラード「レッツ・ドゥ・イット・オーヴァー」が65年にヒットしたころには、独特のジョー・サイモン節が出来上がっていた。

サム・クックとボビー・ブランドを隠し味に、暖かくフレイジング巧みなバラード唱法だ。

このヴィー・ジェイ時代の録音は日本盤CD(ヴィー・ジェイ 30YD-105)などで聞ける。

そして66年には、日本で評判が高い、リッチバーグのレーベル、サウンド・ステージ・セヴンでのナッシュビル録音が始まる。

5枚のアルバム(ベスト盤を除く)を残したこの時期の、名曲ベスト3として、ここに挙げたアルバム(同レーベルでの2枚目)のA(1)、B(1)、そして、4枚目(Sound Stage Seven 15006)のタイトル曲の「ザ・チョーキン・カインド」を推したい。

シュプリームスのものとは同名異曲のA(1)は、しみじみよくできたミディアムの曲で、のちにアン・ピープルズなど多くの歌手にカヴァーされてスタンダード化。

牢屋に入っている男の心情を歌ったバラードB(1)では、押さえた表現にこもる叫びが胸をうつ。

このアルバムには、他にもB(5)のような好バラードが入っており、A(4)ではクック節が聞ける。

また、B(3)で、ジャンプものも歌えることが分る。

ここでのアルバムには、重複があるのが難点だが、どれも充実しており、「チョーキン・・・」以外にも、「ミスティ・ブルー」や「ルッキン・バック」など多くの聞き物があるので、要チェック。

その多くは、数年前に出た日本盤LP2枚(Pヴァイン PLP-506,PLP-507)に入っていた。

70年にスプリングに移ったサイモンは、初めは相変わらずリッチバーグのもとで録音し、サザン・ソウルの王者として活動するが、71年にフィラデルフィア録音の「ドラウニング・イン・ザ・シー・オブ・ラヴ」のヒットで、一躍、全国区のスターになる。

10年のスプリング時代に11枚のアルバムが出たが、その間、フィラのシグマ録音、レフォード・ジェラルド制作のNY録音、シカゴのチェス録音、ナッシュビルやマスル・ショールズでの南部録音など、かなり意図的に音を使い分けている。

スプリングでの第1作”Sounds Of Joe Simon”(Spring 4701)、第2作”Drowning In The Sea Of Love”(同 5702)、第3作”The Power Of Joe Simon”(同 5707)、第5作”Mood Heart And Soul”(同 6702)あたりはCD化されて、日本盤もある。

とくに、ギャンブル=ハフのクラシック・サウンドが聞ける2作目と3作目は、都会派ソウル・ファンにも無視できないはず。

ちょっとブルーなジャンプの「ドラウニング・・・」をはじめ、2作目の完成度はとくに高く、これが彼のベストという聞き方もある。

第5作はマスル・ショールズ録音で、サウンド・ステージ時代の曲のファンには楽しめそう。

いっぽうでは、73年の第4作”Simon Country”(同 5707)のようにC&Wをサイモン流に料理して歌い続けながら、もう一方で75年の”Get Down”(同 6707)からの「ゲット・ダウン・ゲット・ダウン」のように、ディスコの大ヒットもスイスイ出せるという器用さが、も一つこの国でサイモンが受けない原因かもしれない。

ただし、ディスコに深入りし、ローリング・ストーンズをカヴァーしたりした76年の第7作”Today”(同 6710)あたりからサウンド的に迷走(といってもボビー・ブランドの「アイル・テイク・ケア・オブ・ユー」のファンク・ディスコ・ヴァージョンなどカッコいいが)、あとのアルバム4枚(Spring 6713,6716,6720,6724)は総体的に低調な仕上がりになった。

サイモンのヴォーカル自体は衰えないけど、それを時代のなかで光らせるコンセプトが欠乏してきたのね。

ノーマン・ハリス制作でコケた”Love Vibration”を最後に、サイモンは79年にスプリングを去り、81年の”Glad You Came Way”(Posse 10002)、85年の”Mr. Right”(Compleat 671015)と、南部録音のアルバムを散発的に出した。

どちらもディープなアルバムだったのだが、マイナー・レーベルの悲しさで、以前ほどの注目を浴びなかった。

そののち、母の病気をきっかけに神の道に目ざめたサイモンは、ソウルの世界を引退、あちらの世界の人になってしまった。

「歌う説教」のアルバム”Simon Preaches Prayer”(Skull 101)を聞くと、まだ全盛なのが分るだけに、ソウルへの復帰が無理なら、せめて、今までは節約していたハード・シャウトも入れたゴスペル・アルバムを期待したい。

転載:U.S. Black Disk Guide©中河伸俊

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