LP (Brunswick BL-54110)
Producer: Nat Tranopol
その全盛期のステージの凄さはJ.B.にも匹敵したと言う、50年代R&Bシーンにおける最もエキサイティングなシンガー、デトロイトが誇るジャッキー・ウィルスン。
身体の底からあふれ出る熱い表現、黒人達の中に生きることによって磨きを掛けられた黒いダンディズム、スターとしての華。
R&Bの命となるダイナミックなリズムの乗りとスウィートな身のこなしを備えた、ソウル・ミュージックの偉大なオリジネイターの一人である。
これは、63年にR&Bチャート1位を記録した大ヒットA(6)をフィーチャーしたアルバム。
ジャケ裏のライナーに「ダンシング・シューズを履いて、ミスター・エキサイトメントと楽しもう!」とあるのは嘘ではなく、12曲全てがダンス・ナンバーで占められている。
以前の(勿論それも強力であったが)ポップ / ロックン・ロールのニュアンスも活かしたリズム・ナンバーに比べて、乗りの大きさと粘着度を増した、より過激なダイナミックスを感じさせるスタイルで迫る、来たるべき時代へ向けてのジャッキー流のソウルフルな展開がここにも見て取れる。
正しくジャンプR&Bの極みである。
ロイ・ブラウンの影響を受けた、天性のしなやかさを持つハイ・テナーが、荒っぽいシャウトを混じえ縦横無尽に駆けめぐる。
加えて、全編に渡って、R&Bブギーとでも称すべきハード・ドライヴィングなサウンドを提供するオーケストラ、エネルギッシュに煽り立てる女性コーラスが渾然一体となって盛り上げるのである。
まるで身体全体がリズム化したかのように躍動するジャッキーの表現が最高だ。
どの曲も充実しているが、とりわけ、強烈なダンス衝動に貫かれたジャッキーのシャウトが大胆に突出するA(1)、ソリッドなホーンとウォーキン・ベースに乗って熱狂の渦へとなだれ込むA(6)が素晴しい。
いずれの曲でも、激しい情熱がほとばしる一方で、決めを得た粋な都会的洗練を窺わせるあたりも、抗し難い魅力となる。
ジャッキーの本質的な力量が最大限に発揮されたベスト作であるばかりでなく、強力なジャンプ・サウンドに乗って、50年代R&Bのパワーを見事にモダン化した、60年代の決定的ダンス・アルバムの1枚と言っても過言ではないであろう。
▶Some More from this Artist
- “Billy Ward & His Dominoes” (King 733)
- “Jackie Wilson 14 Hits With Billy Ward & His Dominoes” (同 5007)
- “He’s So Fine” (Brunswick 54042)
- “Lonely Teardrops” (同 54045)
- “So Much” (同 54050)
- “Jackie Sings The Blues” (同 54055)
- “My Golden Favorites” ((同 54058)
- “A Woman, A Lover, A Friend” (同 54059)
- “You Ain’t Heard Nothin Yet” ((同 54100)
- “By Special Request” (同 54101)
- “Body And Soul” (同 54105)
- “Jackie Wilson Sings The World’s Greatest Melodies” (同 54106)
- “At The Copa” (同 54108)
- “Baby Workout” (同 54110)
- “Merry Christmas From Jackie Wilson” (同 54112)
- “Shake A Hand” (同 54113)
- “My Golden Favorites Vol.2” (同 54115)
- “Somethin’ Else!!” (同 54117)
- “Soul Time” (同 54118)
- “Spotlight On Jackie Wilson” (同 54119)
- “Soul Galore” (同 54120)
- “Whispers” (同 54122)
- “Higher And Higher” (同 54130)
- “Manufacturers Of Soul” (同 754134)
- “I Get The Sweetest Feeling” (同 754138)
- “Do Your Thing” (同 754154)
- “It’s All A Part Of Love” (同 754158)
- “‘You Got Me Walking'” (同 754172)
- “Beautiful Day” (同 754189)
- “Nowstalgia” (同 754199)
- “Nobody But You” (同 754212)
- “The Jackie Wilson Story” (Epic 38623)
- 『グレイテスト・ヒッツ』(CBS ソニー 32DP-5171)
①②はドミノズの頃の歌が聴けるアルバム。
威厳のある重厚なコーラスにジャッキーのオペラ唱法、ロイ・ブラウンを思わせるR&B / ジャンプ・ブルースが躍動する。
まだ若さは残るが、確固たる美的感覚が優れた説得力となる。
57年にブランズウィックから発表されたヒット「リート・プティート」をフィーチャーした①では、まだ50年代の色も濃く、トリッキーなギターが印象的なジャンプ・ナンバーから、ロマンティックで、同時に硬派の雰囲気を醸すR&Bバラードまで、生命力溢れるR&Bが聴ける。
エルヴィス・プレスリーあたりのロックン・ロール・ヒッツの影響の巧みな消化も見逃せない。
58年にR&Bチャート1位を記録した「ロンリー・ティアドロップス」を含む②では、よりポップな艶っぽさが増す。
また、この2枚におけるベリー・ゴーディ・ナンバーのキャッチーな魅力は、明らかにモータウンのルーツの趣。
続く③では同路線に更に肉付けが成され完成度が高まる。
3枚いずれも、50年代R&Bエッセンスを新たな時代へ向けてオリジナルな解釈を施したジャッキーが聴ける優れたアルバムである。
都会派シンガーとしてのダンディズムにポイントを置いたのが、⑥⑧。
特に⑥は、ブルーな都会の雰囲気が泣かせる秀作。
⑥からは「ドッギン・アラウンド」、⑧からは「ア・ウーマン、ア・ラヴァー、ア・フレンド」といった濃厚なブルージー・バラードの名曲が生まれている。
また⑧に収録の、オペラ唱法で朗々と歌い上げ、R&Bチャート3位を記録するヒットとなった「ナイツ」も、彼を語る上で欠かせない作品であろう。
バラード志向が強まった所為か、その後アル・ジョルスンの曲ばかり取り上げた⑨、古今東西名曲カヴァー集⑩⑪⑫と安易な企画が続く。
⑬は、場所柄もあって上品なライヴとなってはいるが、黒人シンガー / エンターテイナーとしての力量のほどは充分認識できる。
成功作⑭以降は、クリスマス・アルバム⑮、リンダ・ホプキンスとのデュオ⑯、ジャンプ・ナンバーが揃った⑱、スタンダード風バラードが中心の⑲⑳を発表するが、いずれも平均的作品。
続く㉑が、ジャッキーの個性がソウル感覚と結びつき、深いニュアンスを持つ迫力充分の好アルバムとなっている。
更にソウル・シンガーとしての方向が確立されたのが㉒㉓。
いずれも優れたノーザン・ソウル・アルバムだが、特にR&Bチャート1位を記録した「ハイヤー&ハイヤー」を収めた㉓が名作だ。
㉕以降も同じ路線を取り、随所にジャッキー流ノーザン風味を盛り込んでいる。
もっとも、そこにかつての輝きを求め得ぬのは致し方ないところである。
尚、ベスト盤では、初LP化曲も収めた㉜が好選曲で、この偉大なR&Bシンガー、ノーザン・ソウルの先駆者としての姿を伝えてくれる。
CDでは㉝が最高の選曲がなされている。
転載:U.S. Black Disk Guide©平野 孝則
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