BEN E. KING / Don’t Play That Song
LP (Atoco 33-142)
Producer: Bert Berns
男らしく胸を張った、常にポジティヴな想いに貫かれた表現。
まるで都会のハード・タイムズを生きる恋人達に捧げられたかのような、力強くロマンティックな「スタンド・バイ・ミー」が全てを語る。
温かい歌心、硬質なダイナミズムを備えたニューヨークR&Bシンガー、ベン・E.キングである。
あのアポロ劇場のライヴ・アルバムでトリを務めるベン・E.の自信に溢れた歌いっぷり、黒人の女性達の熱狂的な声援を聴けば、その存在の大きさを認識出来るに違いない。
60年、ドリフターズから独立したベン・E.は、翌年、R&Bチャート1位に4週間もランクされる大ヒットB(1)で名を挙げることになる。
その当時の録音を集めたのが、62年発表のこのアルバム。
ドリフターズ時代より若干の洗練を見せ、持ち前のハスキーなバリトンでエモーショナルに歌ったB(1)、62年の大ヒットA(1)が、正しくR&Bクラシックスと呼ぶべき素晴らしさ。
メロディの優れたポップな曲をソウルフルに展開させる、シンガーとしてのベン・E.の魅力がこの2曲で味わえる。
また、フィル・スペクター作のバラードB(3)における、どこか哀愁を漂わせる熱っぽいヴォーカルも心に染み入るであろう。
勿論、ドリフターズ時代の個性を受け継ぐ、スパニッシュ・フレイヴァーを活かしたA(2)(6)、サム・クックあたりに通じるハート・ウォーミングなA(4)、B(5)(6)での、都会的でキャッチーな甘さにR&Bの粋なセンスが光る仕上がりも見逃せない。
また、ポマス=シューマン、リーヴァー=ストーラー、スペクター等に代表される、この時代のライターの素晴らしさも重要となるに違いない。
ニューヨーク感覚に彩られた、ベン・E.の個性でこそ作り得たスウィートでタフなアルバムである。
▶Some More from this Artist
- “Spanish Harlem” (Atco 33-133)
- “Ben E. King Sings For Soulful Lovers” (同 33-137)
- “Don’t Play That Song!” (同 33-142)
- “Greatest Hits” (同 33-165)
- “Seven Letters” (同 33-176)
- 『スタンド・バイ・ミー』 (アトランティック P-6181)
- 『ホワット・イズ・ソウル』 (アトランティック P-8617)
- “Rough Edges” (Maxwell 88001)
- “The Beginning Of It All” (Mandala 3007)
- “Supernatural” (Atlantic 18132)
- “I Had A Love” (同 18169)
- “Let Me Live In Your Life” (同 19200)
- “Music Trance” (同 19269)
- “Street Tough” (同 19300)
ベン・E.にとって最初のヒットとなった「スパニッシュ・ハーレム」をフィーチャーして作られたのが①。
ドリフターズ時代のスパニッシュ路線を発展させたこのタイトル曲は、概してソウル・ファンからの評価は高くないが、いかにもニューヨーク的な美しいストリート・イメージを喚起させるベン・E.ならではの名曲である。
ラテン風味を主としたアルバム自体は、ポピュラー・シンガーとしての側面が過ぎる感もある。
続く②は、R&B/ポップのヒット曲カヴァー集。
この時代のシンガーがよくやる、洗練されたポピュラーなスタイルでこなし、ベン・E.自身の持ち味がそれに近いところにあることを思えば、温い歌心を感じさせるあたり悪くはないが、本領発揮には到っていない。
④はベスト盤であるが、6曲の初LP化の曲を含む。
「ザッツ・ウェン・イット・ハート」「ハウ・キャン・アイ・フォゲット」といったR&Bシンガーとしてのハードな感覚を全面に出したナンバーが特に聴き応えがある。
カントリー・バラードを切々と歌い込んだ65年のヒット「セヴン・レターズ」をタイトルとした⑤は、時代の流れに則してソウル的な表現のふくらみを増したベン・E.が聴ける。
タイトル曲や、ソウル・スターラーズの名曲を下敷にした「アイム・スタンディング・バイ」等のディープな作品が含まれ、ソウル・ファンからは好評を得ている。
しかし、ディープと言えば、65~69年録音の未LP化シングルを集めた⑦が最高だ。
バート・バーンズ制作のダイナミックなニューヨーク・ディープからメンフィス録音のサザン・ソウル、ドン・デイヴィス制作のデトロイト録音まで、ベン・E.の熱気に溢れたヴォーカルが収められたアルバム。
ベン・E.のソウル・イヤーズの充実が見事に捉えられている。
尚、同じく日本編集のグレイテスト・ヒッツ⑥も、初LP化2曲を含む好選曲が成されている。
70年作の⑧は歌、演奏共に聴くべき所は全くないが、⑨ではベン・E.らしさも発揮され、かなり持ち直している。
しかし、復活がかなったのは、74年にR&Bチャート1位を獲得した「スーパーナチュラル・シング」ということになる。
軽快なファンキー・タッチのこの曲はベン・E.の新境地であったが、⑩には新しい音を巧みにこなしたバラードにいい作品が収められているあたりも評価しなければならない。
以降もバート・デ・コトーのプロデュースによる⑪⑬、メンフィス録音⑫、自らプロデュースした⑭を発表、いずれも現代感覚を備えた、意欲的な作品に仕上がっている。
転載:U.S. Black Disk Guide©平野孝則
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