THE RUFFIN BROTHERS / I Am My Brother’s Keeper
LP (Soul SS-728)
Producer: Unknown
ソウル界では、兄弟姉妹が別々に独自の音楽活動を展開しているという例が時々あって、有名なところでは、ジェリーとビリーのバトラー兄弟、アレサ、アーマ、キャロリンのフランクリン姉妹、ジミーとデヴィッドのラフィン兄弟、もう少しマイナーな例としては、パーシーとスペンサーのウィギンズ兄弟、もっと新しいところでは、マイケルとジャネットのジャクスン兄妹などが挙げられる。
ここに紹介するラフィン兄弟は、言うまでもなく60年代のモータウン・ファミリーの一員で、2人ともにトップ10ヒットを飛ばしているところが立派である。
2人の出身はミシシッピーの田舎町で、その後夢を求めて北部に移るというよくあるパターンを踏んでいる。
デヴィッドの方は、63年から68年までテンプテーションズに在籍しているが、その少々ラフな、しかし力強く深みのある歌声で、テンプテーションズのロマンティックな曲を締まりのあるものに仕上げ、「マイ・ガール」「シンス・アイ・ロスト・マイ・ベイビー」「エイント・トゥ・プラウド・トゥ・ベッグ」など数多くのビッグ・ヒットを飛ばしたことはご存知の通りである。
ゴスペルの筋金の入った素晴らしいシンガーである。
68年からはソロ・シンガーとして活躍している。
一方お兄さんであるジミーの方は、テンプスのメンバーの推薦でモータウンに入社している。
シンガーとしての実力は弟に譲るものの、その優しい歌いぶりに独特の表情があり、捨て難いシンガーである。
このアルバムは、ラフィン兄弟の唯一のデュエット・アルバムで、70年にリリースされている。
ベン・E.キングのA(2)、ジェリー・バトラーのA(4)、デルフォニックスのB(1)、タイロン・デイヴィスのB(3)と、他人のヒット曲を多く取り上げた安易な選曲がやや心残りだが、アルバムとしての出来は優れたものだ。
この70年代には、モータウンは既に一時のような輝かしい活力を失っており、デトロイトを捨てウエスト・コーストへ移ろうと計画していた時期だけに、このアルバムでのノーザン風味溢れるオーソドックスさは、とりわけ印象的である。
といっても、当然ながらいわゆる往年のモータウン・サウンドがここで聴けるわけはなく、曲によってはフィリー風だったり、ファンキーっぽかったりしているのがおもしろいところだ。
ラフィン・ブラザーズというのは、このアルバムだけのために組まれた、いわゆる即席デュオなわけだが、さすがに兄弟だけあって息もピタリと合い、見事なハーモニーを聴かせてくれている。
やはりミディアム~アップが多くなっているが、ダイナミックなA(3)やノリの良いA(6)はノーザン・ダンサーの一級品に仕上がっている。
もう少しテンポを落としたA(1)も素晴らしく、実に味わい深い作品だ。
スローはA(5)、B(5)とあるが、特にB(5)は最高で、2人の熱唱には思わずこちらも熱くなる。
このA(1)、B(5)がこのアルバムのハイライトだろう。
ともにノーザン・ソウルの秀作と呼べるものだ。
また、先に挙げた他人の4曲A(2)(4)、B(1)(3)については、原曲のイメージを大切にした作りで、その分2人の持ち味が出切ってない気もするが、平均点は軽くクリアー。
個人的にはA(4)が気に入ったが、B(1)も意外とうまく自分たちのものにしていて感心する。
このうちA(2)は小ヒットを記録している。
残りの曲では、B(4)はややファンキー調の曲だが、これも迫力のある聴きものになっている。
ほとんどつまらない曲がなく、ノーザン・ソウルの傑作アルバムの1枚に挙げてもおかしくない内容である。
▶ジミー・ラフィンのソロ・アルバム
- “Sings Top Ten” (Soul 704)
- “Ruff’n Ready” (同 708)
- “The Groove Governor” (同 727)
- “Sunrise” (RSO 1-3078)
モータウンもジミー・ラフィンにはそれほど力を入れていなかったようで、アルバムもソウル・レーベルに3枚あるのみである。
①は「ホワット・ビカムズ・オブ・ザ・ブロークンハーティッド」「アイヴ・パスド・ジス・ウェイ・ビフォア」「ゴナ・ギヴ・ハー・オール・ザ・ラヴ・アイヴ・ガット」というジミーの3大ヒット曲を含んだ代表的なアルバムで、76年にリリースされている。
これらの曲で聴けるように、ジミーの飾り気のない歌いぶりには好感が持てる。
気軽に楽しめるアルバムだ。
そういった彼の持味は69年の②においても全く変わっておらず、これも推薦できる中級ソウル・アルバムである。
70年の③になると、派手になったサウンドがジミーとの釣り合いをやや崩しており、昔のようなシンプルな良さが無くなっているのが残念だ。
ずっと飛んでRSO盤の④は80年のアルバム。
かなりポピュラー寄りの作りになっており、ソウル・ファンには物足りない。
▶デヴィッド・ラフィンのソロ・アルバム
- “My Whole World Ended” (Motown 685)
- “Feelin’ Good” (同 696)
- “David Ruffin” (同 762)
- “Me’n Rock’n Roll Are Here To Stay” (同 818)
- “Who I Am” (同 849)
- “Everything’s Coming Up Love” (同 866)
- “In My Stride” (同 885)
- “So Soon We Change” (WB 3306)
- “Gentleman Ruffin” (同 3416)
- “Ruffin & Kendrick” (RCA 6765)
テンプス時代のデヴィッドについては別稿に譲るとして、ここでは彼の独立後のアルバムを紹介しよう。
69年の①が彼のデビュー・アルバムになるわけだが、内容は彼の名に恥じない立派なものだ。
「アイヴ・ロスト・エヴリシング・アイヴ・エヴァー・ラヴド」などにはノーザン・ソウルのエッセンスが凝縮されている。
この好調さは同年の②でも引き続き維持されており、「アイム・ソー・グラッド・アイ・フェル・フォー・ユー」のような力作が収録されている。
次の73年の③も、時代を反映してバックは軽くなっているものの、デヴィッドのヴォーカルは相変わらず際立っている。
74年の④は勘弁して欲しいタイトルだが、ノーマン・ホウィットフィールドの制作では、期待するのが間違い。
これはデヴィッドの歌声の無駄使いというものだ。
75年の⑤、76年の⑥、77年の⑦はヴァン・マッコイの制作である。
⑤はナンバー・ワン・ヒットの「ウォーク・アウェイ・フロム・ラヴ」を含むアルバムで、フィリー・ダンサーの影響も感じられる。
まずまずのアルバムだ。
⑥⑦になるとディスコ色が濃くなる。
デヴィッドのヴォーカルがあるので結構聴けるが、型にはまり過ぎていてスリルに欠けるのが惜しい。
79年からはワーナーに移り、⑧と⑨を残している。
⑧は79年、⑨は80年のアルバムで、共にドン・デイヴィスが制作に当たっている。
引き続きディスコの影響は強いが、バラード志向も見せていて、⑨では半分がスローになっている。
やや洗練されている感じもするが、デヴィッドらしさは残っている。
87年の⑩はテンプス時代の盟友、エディ・ケンドリックスとのデュエット・アルバムだ。
バックはディジタル化され、彼らの声にも昔のような艶や迫力は望めないが、その熱い息遣いは昔のままだ。
少し前12インチを出しカムバックが期待されたが、そのまま帰らぬ人となった。
転載:U.S. Black Disk Guide©石黒恵
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