WILSON PICKETT / The Sound Of Wilson Pickett
LP (Atlantic SD-8145)
Producer: Rick Hall, Tom Dowd
オーティス・レディング、ソロモン・バーク、ウィルスン・ピケット、と3人をこう並べた時に、一番損な役回りを引き受けているのが、このピケットではないだろうか。
オーティスは死後20年以上たってほとんど神話化されているし、バークはゴスペルという避難場所を残した。
が、ピケットはなお現役シンガーとしてしばしば公の場に登場し、時に醜態をさらさなければならない羽目に陥ることになる。
だがそのたびに、評価が下がっていくとしたら、これほど心の痛むことはない。
彼が特に60年代に残した業績はまさしく本物であり、不変の価値を持つと考えられるからだ。
ピケットといえば、男臭さ、マッチョマンのイメージが強いと思われるかもしれない。
確かにそうした面が彼の魅力の一面であるには違いないが、ぼくには優しくて包容力のあるピケットのイメージというのが常にあった。
具体的にいえば、「バック・イン・ユア・アームズ」「アイム・ソリー・アバウト・ザット」「アイム・イン・ラヴ」で見せるあのスケールの大きい何ともいえぬ歌いっぷりだ。
また、「ピープル・メイク・ザ・ワールド」のように故マーティン・ルーサーに捧げようというところにも強い信念が感じられた。
ピケットのソロ・ナンバーではないが、これにファルコンズ時代の「アイ・ファウンド・ア・ラヴ」を加えれば、この5曲こそがぼくの一番のお気に入りということになるかもしれない。
しかも、その好きな程度は尋常なものではない。
こうした曲を何十回、何百回と聞きながら、なぜ日本のファンはこの良さがわからないのだと、慨嘆したこともかつてはあった。
今あげた5曲のうち、3曲までがボビー・ウーマックが作っているように、ぼくは長い間彼とボビーとの関係に着目してきた。
彼がボビーの才能を早くから認め、彼の曲を好んで取り上げたばかりでなく、ギタリストとしての参加を要請したという話に、またまた強い意志を感じ、嬉しくなったりしてしまったわけである。
このアルバムは、3曲そのボビーの曲を歌っており、またクレジットされてはいないが、何曲かでボビーがギタリストとして参加していることも確認されている。
文字通りファンキーなA(2)も、いわばピケットとウーマックの共作なのだ。
67年といえば、サザン・ソウル界にもジェイムス・ブラウンの影響がかなり押し寄せてき始めた頃で、A(1)、B(1)あたりも「ダンス天国」の頃のストレートな響きとは少し違ってきている。
もっとも、ぼくはA(6)の方がよく出来ていると思っているのだが。
スローでは、何といってもB(4)だが、彼の出世作の再録A(4)(5)、ボビー作のB(2)とすばらしい作品が続く。
やっぱり、これはすごいアルバムです。
改めてそう痛感した。
▶Some More from this Artist
ピケットがソロ・デビューしたのが、62年のこと。
「イフ・ユー・ニード・ミー」「イッツ・トゥー・レイト」と続けてヒット曲も生まれ、①”It’s Too Late” (Double-L 2300) も作られたが、ファルコンズ時代に比べ、バックの弱さが気になる。
もっとも、彼がソロモン・バーク、ガーネット・ミムズらと並んで一大潮流を作りつつあったことは確認できる。
なお、このLPは様々な形でリイシューされている。
64年にアトランティックに入社、いよいよ栄光の時代が始まるわけだが、その約9年間のアルバムをまとめておこう。
② “In The Midnight Hour”
③ “The Exciting Wilson Pickett”
④ “The Wicked Pickett”
⑤ “I’m In Love”
⑥ “The Midnight Mover”
⑦ “Hey Jude”
⑧ “Right On”
⑨ “In Philadelphia”
⑩ “Don’t Knock My Love”
ピケットの場合、このようにアルバムで区切ってもあまり意味がないところがある。
一番わかり易く、また彼の性格がわかるのは、スタジオで区切るやり方である。
すなわち、ニューヨーク録音に始まって、メンフィス、マスル・ショールズ、メンフィス(アメリカン・スタジオ)、再びマスル・ショールズに戻って、マイアミ、フィラデルフィアと来て、マスル・ショールズで終える。
それぞれにドラマがある。
②はニューヨーク録音と勇躍スタックスに乗り込んで録音したものまでを含む記念すべきアルバム。
いうまでもないタイトル曲を始め、「ザッツ・ア・マンズ・ウェイ」(カーラ・トーマスの「ア・ウーマンズ・ラヴ」の改作といわれる)などが秀逸だが、ファルコンズ時代の作品にも注目してみたい。
③は「ダンス天国」が生まれたアルバムだが、半分はスタックス録音を含む。
いろいろと聞き所が多いが、続く66年の④となると、マスル・ショールズ録音だけになり、アルバムの統一感は出てくるが、充実味はなくなる。
ボビー・ウーマックの起用も目立ち始め、先の傑作アルバムへと結実していく。
⑤からはアメリカン・スタジオ録音となるが、これも別の意味で名作。
よく聞いたのが「アイム・イン・ラヴ」と「アイヴ・カム・ア・ロングウェイ」。
これもウーマックの作品。
スリーヴ・ノーツにその彼がギターを弾いているという文を見つけ、彼のギターも随分と鑑賞した。
歌にしびれ、曲にしびれ、ギター・サウンドにしびれるアルバム。
⑥も同様のスタイルを持つものだが、内容的には⑤より若干弱い。
69年の名作が⑦。
アルバムとしてはやや趣向が過ぎるのでベストとは思わないが、一番聞いたアルバムとなればこれ。
ああ「バック・イン・ユア・アームズ」「ピープル・メイク・ザ・ワールド」よ!「ヘイ・ジュード」のヒット曲が有名。
続く70年の⑧はあまり騒がれないが、「シュガー・シュガー」という彼の代表作のひとつが生まれている。
スローよりこうしたテンポの曲が良く、「ウーマン・ライクス・トゥ・ヒア・ザット」なんていう隠れた傑作もある。
これで同時期の「コール、クック&レディング」入っていれば申し分なかったのだが、上記のアルバムには収録されていない。
70年、アトランティックは何を思ったか、彼とギャンブル=ハフを出会わせるということをした。
その結果が⑨である。
出された当時は裏切られた感じがして、随分がっかりしたものだが、「グリーン・グラス・フール・ユー」他、いい作品もある。
⑩は悪くないが、この時代では一番落ちる。
⑪”Mr. Magic Man”
⑫”Miz Lena’s Boy”
⑬”Pickett In The Pocket”
⑭”Join Me And Let’s Be Free”
⑮”Live In Japan”
⑯”Chocolate Mountain”
⑰”A Funky Situation”
⑱”I Want You”
⑲”Right Track”
⑳”American Soul Man”
この中で、1枚となれば、ぼくはすぐに80年の⑱を選ぶ。
久々の快作「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」がすべて。
これでうまくいくはずだったのだが。
南部録音では⑬⑯がさすがだが、⑰は音にしまりがない。
⑭もスローに意外にいい曲が入っていたりする。
87年の⑳は情なかった。
転載:U.S. Black Disk Guide©鈴木啓志
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