LP (Volt 412)
Producer: Otis Redding, Steve Cropper, Jim Stewart
短い間に全精力を集中して燃え尽きてしまうか、長い間かかって一定の地位を築き、そこそこの作品を残し続けるか、そのどちらが幸せかはわからない。
だが、オーティス・レディングがその前者の典型的な1人であるということだけははっきりしている。
もっとも、不慮の飛行機事故によって突然そのキャリアに終止符を打たれたのではあるのだが、彼ほど”燃え尽きた”という印象が強いアーティストをぼくは他に知らない。
ということは、逆に生前はそれだけパッションを傾けてレコーディングにライヴに取り組み、その生命さえ賭けていたという言い方もできる。
そのパッションが強く純粋である時には、往々にしてその魂(ソウル)はジャンルを越えて伝播するものだということを死後のオーティスは証明した。
が、パッションでもいい、ソウルでもいい、それは音楽的高みと必ずしも同義ではない。
オーティスも人の子である。
その情熱がカラ回りし、結局はそれが表現として伴っていかないということもたびたびあった。
そうした時思うのは、デビュー時から66年くらいまでの完璧さ、見事さである。
63年から始まっての4年間、その短時間での集中度は、他の誰をも寄せつけないとさえ言うことができる。
その輝かしい頂点に立つアルバムこそ、彼の3枚目『オーティス・ブルー』といってもいいのではなかろうか。
サザン・ソウルの録音史ということからしても、ここには歴史の転換期にあたる重要な事実がかくされていた。
スタックスにとって、初めてステレオ録音が行われたということがそれである。
スタックスと配給契約を結んでいたアトランティックは、ニューヨークからトム・ダウドを直接メンフィスのスタジオに派遣し、あまりに古臭い機器を取り払い、ティアックのステレオ・レコーダーをスタジオに持ち込んだ。
A(1)(2)(5)は、既に先にモノ・ヴァージョンで吹き込まれていたものだが、この3曲はいずれもステレオ・ヴァージョンとして吹込み直されたものだ。
オーティスですごいと思うのは、この3曲のいずれもステレオ・ヴァージョンの方がいいということである。
普通は、オリジナル・ヴァージョンの方がいいものなのだが、ここにオーティスの”前進していく”アーティストとしての特性がはっきりと現れている。
ぼくはこのアルバムの後も彼は前進していると考えているが、といって必ずしもこのアルバムを凌駕しているとは思わない。
その先を見る姿と、過去を見極め、自分のモノに創り上げるそのバランスがこのアルバムでは絶妙であると思えるからだ。
彼が敬愛していたサム・クックの3曲、A(3)、B(1)(3)にそれは顕著である。
特にA(3)とB(3)。
いくらオリジナルを愛していたとはいえ、ここまでその曲に自己を投入させ、豊かな創造物として仕上げられるものだろうか。
絶句である。
アレンジといえば、B(5)に関する逸話も有名である。
ストーンズの曲を全く自分のものにしてしまったその力量。
題材がロックだったということもあるが、66年のこのヒットと、録音技術の革新により、オーティスが南部を中心とした黒人社会から飛び出して、広く受け入れられる条件はすべてこのアルバムで整い、これが出発点になったといってよい。
▶Some More from this Artist
- Pain In My Heart
- The Great Otis Redding Sings Soul Ballads
- The Soul Album
- The Otis Redding Dictionary Of Soul – Complete & Unbelievable
- Otis Redding Live In Europe
- King & Queen
- The Dock Of The Bay
- The Immortal Otis Redding
- In Person At The Whisky A Go Go
- Love Man
- Tell The Truth
- Otis Redding Recorded Live
- Story
オーティスに関しては様々な伝説がある。
たとえば、デビュー作「ジーズ・アームズ・オブ・マイン」を吹き込んだのは、ジョニー・ジェンキンスの付き人をやっていた彼が、たまたま彼のレコーディングの時間が余った際に吹き込ませてもらって出来上がったのだ、といった類の話である。
だが、本当はあらかじめ予定されていて、短い時間に吹き込むように言い渡されていたのだという。
この種のことを詳細に調査したのが⑬のライナーを書いているロブ・ボウマンという人でこれは必読の文献である。
ちなみに、この日本語訳はぼくがやったけど、文章の入れ替えという悲惨なことが途中で起ってしまったので要注意。
この人の書いたものすべてに賛同するわけではないが、未だ古い資料に頼って間違ったことを書いているのがあるので、まずこれに目を通せと言いたい。
なお、この⑬には「ユー・レフト・ザ・ウォーター・ランニング」という実に貴重な作品も収録されている.
ヴォルト以前のものとしては、リトル・ジョー・カーティスと半々に収録された”Here Comes Some Soul” (Somerset 29200) などがあり、初期のリトル・リチャード・スタイルが楽しめる。
62年10月頃の歴史的な録音以来、メンフィス・ソウルの王者としての姿が始まるが、初期2枚①②は必聴。
特に②は彼のベストという人も多い名盤中の名盤だ。
66年の③もややアレンジに凝ったりするところはあるものの、むしろ無条件に絶賛できるといった内容である。
「シガレット&コーヒー」なんかもう最高。
だが、続く④になると、多少ウームと首をかしげてしまうところも。
確かに「トライ・ア・リトル・テンダーネス」の独創的など脱帽ものだけど、これが彼の最高傑作といわれては立つ瀬がない。
彼が自分で作り、歌ってきた曲は一体何だということになってしまう。
ひとつ発見!中に「ラヴ・ハヴ・マーシー」という曲がある。
それほどの曲じゃないけど、途中からのリズム・カッティングはまさに「フーズ・メイキン・ラヴ」じゃないですか。
これが誰のアイディアかはわからないが、こんなところにもオーティスの実に進んだ頭脳を見ることができる。
⑤は、67年3月のスタックスのレビューから編集されたもの。
曲によって調子が悪いものもあるが、「トライ・ア・リトル・・・」や「シェイク」がライヴならではの良さがあるのは確か。
彼のライヴ盤としては66年4月の模様を収めた⑨と⑫、さらにモントレーの物があるが、それよりははるかにいいことは事実。
オーティスの日頃のライヴがこんなレヴェルの低いものだったはずはなく、⑨と⑫は例外だと考えたい。
ライヴとしては、他に2曲だけだが “Apollo Saturday Night” (Atco 159) での初々しさが忘れられない。
⑥までが生前に出されたもの。
カーラ・トーマスとのデュエット(といっても半分は後からそれぞれ声をかぶせている)物という一種の企画LPだが、ぼくは感心しない。
正直いって、あまり聞く気がしないアルバムだ。
その後、⑦以下がすべて死後編集されたもので、ベストは⑧である。
この中の「アイヴ・ガット・ドリームス・トゥ・リメンバー」は大げさじゃなく涙なくしては聞けないというもの。
だが、ノドの手術後に録音された作品が多く集められているだけに⑦⑩⑪といずれも内容は散漫である。
92年になって発見された未発表曲集『リメンバー・ミー』 (VICP-5159) が驚異的な内容だった。
転載:U.S. Black Disk Guide©鈴木啓志
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