WILLIAM BELL / The Soul Of A Bell
LP (Stax 719)
Producer: Jim Stewart
言うまでもなく、スタックスを代表するサザン・ソウル・シンガーの1人である。
同時に、オリジナル・メンフィス・ソウル・シンガーとも言える人で、彼の61年の「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター」は、最初のメンフィス・ソウルとして、サザン・ソウルの歴史を考える上からも重要な作品だ。
この曲は、それほど泥臭くは感じられないものの、南部的な雰囲気を十分に持ったゴスペル臭い曲である。
61年という年代を考えれば、この曲が当時いかに新鮮な響きを持っていたかは想像に難くない。
ウィリアム・ベルは出身もメンフィスで、39年の生まれである。
デル・リーオスというグループを経て、61年にスタックスに入社。
先の「ユー・ドント・・・・・」を発表し、メンフィス・ソウルの基礎を築いている。
この極く初期の作品群は、充実した内容にもかかわらず、あまりアルバム化されていないのが残念だ。
運悪く63年からは兵役に服しているが、65年の復帰後もコンスタントにスタックスに録音を続けている。
どことなく知性を感じさせるのがウィリアムの特徴で、その抑制の効いた歌いくちが魅力的である。
個性的なシンガーだ。
これは67年のウィリアム・ベルの最初のアルバムで、A面がバラード、B面がジャンプ曲という構成になっている。
彼の持ち味がよく出ているのは、バラードではA(1)(2)(5)(6)あたりで、独特の穏やかな表情が印象的だ。
どれもメロディ・ラインの奇麗なバラードで、マイルドなウィリアムのヴォーカルと相俟って、心安まる作りになっている。
そういう意味からも、名曲のA(3)(4)はやや曲自体が重厚過ぎて、彼には合っていないようだ。
なお、有名なA(2)は再録ヴァージョンだが、オリジナルに比べて特に劣っているとも思えない。
一方のB面では、B(2)(4)でのノリの良さが光る。
こういった曲をやっても、くどくならないのが彼の良いところ。
彼は意外とこういったテンポのある曲でも良さを発揮してくれる。
ややアッサリした歌いっぷりながら、そこに味わいがある。
このうちB(2)は、いつものスタックス・サウンドよりも固めの音になっていて、しばしば話題になるところである。
他では、いかにもスタックスらしいA(1)(5)も悪くない。
また、A(1)(2)、B(1)(2)(5)はウィリアムの自作または共作で、彼のライターとしての優れた才能も知ることができる。
もう少し初期の曲やシングル曲を入れて欲しかったところだが、まずは彼の代表作と言えるものである。
▶Some More from this Artist
- “Bound To Happen”
- “Wow…”
- “Phases Of Reality”
- “Relating”
- “Coming Back For More”
- “It’s Time You Took Another Listen”
- “Survivor”
- “Passion”
- “On A Roll”
①は69年頃のアルバムで、ヒットしたスローの「アイ・フォーガット・トゥ・ビー・ユア・ラヴァー」が抜群の出来だ。
この曲は最近トミー・テイトも吹き込んでいた。
が、他の曲が物足りなく、全体的には低調なアルバムで推薦できない。
71年の②はデビー・アルバムに次ぐアルバムといえる。
マスル・ショールズ録音を中心としているためもあって、作りはかなり甘くなっているが、それもウィリアムに関してはプラス方向に働いており、彼の歌をしみじみと味わえる。
72年の③もマスル・ショールズ録音だが、こちらはロック的だったりカントリーっぽかったりレゲエ調だったりで、全く感心しない。
彼の知性派としての悪い面が出たアルバムだろう。
73年の④ではアル・ジャクスンが制作に当たっており、前作よりは締まりのあるアルバムだ。
それでも出来はやっと水準といったところである。
そして、スタックス倒産後はしばらくレコーディングから遠ざかっていたが、77年にはマーキュリーに移籍し、⑤を発表している。
聴きものは大ヒットした「トライン・トゥ・ラヴ・トゥー」で、彼らしさの出た軽いミディアムである。
物足りない曲も多いが、悪いアルバムではない。
デトロイト録音を含んでいるのも興味深いところである。
78年の⑥は再び南部録音で固めている。
やはりバラードでは甘さが目立つが、ミディアムでの軽快さは保持されており、彼のアルバムとしては聴ける方だろう。
また、彼は以前からジョージア州アトランタを本拠地としており、それは今日まで続いている。
以後の3枚のアルバム⑦⑧⑨も全てジョージアでの録音である。
それぞれ83, 86, 89年のアルバムだが、時代が変わっても彼のソフトな持ち味は不変だ。
曲によっては弱々しくて物足りないところも昔通りだ。
どれももう一つパッとしない内容ながら、彼のファンには安心して聴けるアルバムだろう。
また、スタックス時代のジュディ・クレイとのナイス・デュエットは、”Boy Meets Girl” (Stax 2024) で聴ける。
転載:U.S. Black Disk Guide©石黒恵
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