PERCY SLEDGE / Take Time To Know Her
LP (Atlantic SC-8180)
Producer: Quin Ivy, Marlin Greene
パーシィ・スレッジといえば、「男が女を愛するとき」。
60年代ポップス・クイズなら、それで正解。
アラバマ州の田舎町の病院で看護士をしていた青年を一挙にスターダムに送り込んだこのバラードには、エヴァーグリーンという形容がぴったり。
こういう曲って、書こうと思って書けるもんじゃない。
できてしまうんだよね、なんかのはずみで。
スレッジは、けっして器用な歌手じゃない。
暖かさと誠実さを感じさせる淡々とした喉声テナーと、C&Wフレイヴァーのロマンティックなサザン・バラードの組合せが、唯一の武器だった。
だから、ブラック・ミュージックがリズム中心に新展開をした1970年前後に、表舞台から消えた。
でも、彼のワン・パターンの曲を聞いて、砂漠でオアシスを見つけたような気分になるのは、ぼくだけではないだろう。
さて、この1968年のアルバム『恋は時間をかけて』は、スレッジのアトランティックでの第4作で、デビュー時に比べると歌が上手くなっているし、クイン・アイビー・スタジオのミュージシャンの音づくりも緻密。
完成度では、このアルバムが一番だと思う。
「情熱に流されてあわてて結婚すると後悔するよ」というアドヴァイス・ソングA(1)をはじめ、A(2)(3)(6)、B(1)などなど、この人の持味を生かしたバラードが目白押し。
B(3)(5)など、ホーンの処理やギターにメンフィスが感じられる。
やはりタイトル曲と、ダン・ペンとスプーナー・オールダムが書いたA(6)、のちにジャッキィ・ムーアがカヴァーしたB(1)が、曲自体の魅力では抜きんでている。
もちろん、多少のぎこちない部分も含めて、66年の処女作 “When A Man Loves A Woman” にも抗しがたい魅力がある。
男の殉愛路線というんですかね。
「男が女を・・・」や「マイ・アドラブル・ワン」、のちにマイティ・サムも歌った「ホウェン・シー・タッチス・ミー」なんか、シンプルだけど素晴らしい。
スレッジが歌の達人になれば、第二のジョー・サイモンなんだけど、そうでないところに、この人のよさというか、ハートに訴える部分があるんだと思う。
第二作 “Warm And Tender Soul” と第三作 “Percy Sledge Way” は、「イット・ティアーズ・ミー・アップ」のような佳曲もあるが、サザン、ノーザンの名曲・ヒット曲を軒並みにカヴァーしまくるという感じで、制作姿勢にイージーさを感じないわけにはいかない。
そして、きっちり作られた上の第四作のあと、黄金のベスト盤が出、それがアトランティックからの国内向けアルバムのラストになった(これ以外に南アフリカ向けのクリスマス・アルバムが出ている)。
時流だけでなく、健康を損ねたということもあったらしいが、70年代以降、録音は少なくなった。
胸にしむ最後のヒット「アイル・ビー・ユア・エヴリィシング」をフィーチャーした1974年の “I’ll Be Your Everything” は良質の生きたサザン・アルバムだったが、その後は過去のヒットの再録音ものに終始している。
そのなかでは、1983年のMonument 38532がいいが、勿論、未聴の方はそれを聞くまえに、アトランティック時代の傑作群を耳にすることをお薦めする。
転載:U.S. Black Disk Guide©中河伸俊
say-G’z 補足
Amazon music では、”The Atlantic Recordings”の中に含まれています。
No.49がA(1)、一つ飛んでNo.51~54までがA(2)~A(5)、No.31がA(6)。
No.48がB(1)、No.31がB(2)、No.50がB(3)、No.44がB(4)、No.55がB(5)、No.16がB(6)とバラバラになってますが、このアルバムの全曲聴けます。
コメント